ユウトウセイ

青い空。白い雲。輝く太陽。
5時間目の屋上。

ああ、学校とはこういう場所だ、としみじみと思う。
こんな誤認を幼馴染に言えば、ビンタが飛んでくるから、口にはしない。

こうして俺がのんびりしている間にも、
他の真面目ちゃん共がせっせと受験勉強やら何やらのために勉強している様子を思い浮かべると、
思わず笑えてくる。
俺は魔族であろうとなかろうと、所詮こんな性格なのだ。

そんなことを考えながらニヤニヤしていると、5時間目の終わりを告げるチャイムの音が響いた。

ガチャ

屋上の扉が開く音がした。
ああ、また螢子かな。

「なんだオメーまた来たの・・・か・・・?」

螢子だと思って顔を確認せずに、扉の方を見ると、
そこには見たこともない女生徒が立っていた。

間違えてまた憎まれ口を叩くつもりだったことがバレた羞恥心より先に、
なんでこんな所に、螢子以外の奴が来るんだろう、という疑問が浮かんだ。

昼休みに此処に来る可能性のある奴を、勝手に頭の中で挙げてみた。
ヒマそうな桑原。授業が始まったら戻っていく。
イライラした螢子。俺を呼ぶためだけに来る。ちなみに先生の言いつけでないことは分かっている。
あとは・・・あとは・・・。

つまり、どう考えてもこの2人以外来る可能性のある奴はいない。
漫画のように、バレンタインデーに告白祭りが行われるのかどうかは、
バレンタインデーに学校に来た事の無い俺が分かるはずもない。
そもそも、今日はバレンタインデーではない。

じゃあ、なんでこいつここに居るんだろうか。

ただ休みに来ただけだとしても、ほとんどの生徒は俺を恐れてここには休憩しには来ない。
じゃあ、転校生?

でも、この女子は、俺を知っている。
その視線は、しっかり、まっすぐに俺のほうを向いているし、
どう表現したらいいのか分からないが、俗に言う「不敵な笑み」とやらを浮かべているからだ。

「・・・残念でした。雪村委員長ではありません。」

第一声が、「螢子でなくて残念」だった、ということに俺は拍子抜けした。
こいつの表情からして、何かもっとすごいことを言われると思ったのだ。

さて、改めて顔を見てみる。
見たことのある顔だ。恐らく3年の誰かだろう。
名前は・・・分からない。
でも結構可愛い顔をしている。

「浦飯君。次竹中先生の授業だよ?早く、おいで?」
「あ?なんだオメー。んなだりいモン行くか。」

やっぱり、と小さな声でそいつは呟いて、一度下を向いた。
何がやっぱりなんだコノヤロウ、と思いつつも、
あんなに小さな声が聞き取れるという人間離れした能力を知られるわけにはいかない。

「やっぱり雪村螢子じゃないと、来ないんだね。」
「はァ?何言ってんだ?」

「それはそうと。浦飯君、私と付き合わない?」

「・・・はァ?」

何を。
何を言っているんだこいつは。

「ああ、雪村螢子がいるから、ダメなのかな?」
「なっ・・・あいつはそんなんじゃ・・・!」

そう言いつつも、頭の中では話についていけていない。
「付き合う」?「付き合う」ッテナンダ?

「大体、名前も知らない奴と付き合うとか、考えねえだろ。」
「クラスメートなのに、雪村螢子以外知らないのね。
麻生のぞみ、1月31日生まれ、14歳、スリーサイズは・・・。」
「あああああー!分かった!分かったから!」

残念だ、と思ってしまう自分の雑念を打ち消して、心を必死で落ち着かせる。
なんでこいつはいちいち螢子のことばかり出すんだ?

クラスメートって、言ったな。
後で桑原に聞いてみよう。

「で、付き合う気になった?」
「なるわけねーだろ。」

本当に、何言ってるんだこいつ。
俺に話しかけてくるところから既に常人じゃねえ。

「顔、真っ赤だよ?」

悩んでいると、麻生とやらはいつの間にか俺の目の前に来ていて、
俺の鼻を指差してにっこりと笑った。
目の前に女子の顔があって、思春期の少年が赤くならないわけがない、と俺は思う。
まあ、言い訳に聞こえるかもしれないが。

「近づいただけで照れるなんて・・・童貞?不良なのに?」
「は・・・?ぶっ殺すぞ。」

普段から蔵馬やら飛影やらおかしな奴らとばかり関わっているとはいえ、
ここまで変なことを言われて黙っていられるほど、俺はイイコちゃんではない。

肩をつかんでフェンスに押し付ける俺を見て、麻生は楽しそうに笑った。

「アハハ、本当に血の気が多いんだね。」
「てめ・・・。」

「私がずっと君の事見てたこと、知らないでしょ?」

俺は肩をつかむ手を緩めて、タバコに火をつけて、
背中をフェンスにつけたまま、ずるずると下に座った。
麻生も、すぐに座ってまた俺の顔を眼を細めながら見ていた。

麻生は「体に悪いからやめろ」とは言わなかった。

「・・・知るわけねー。」
「でしょうね。浦飯君、学校に来たら雪村螢子のことしか見てなかったもの。」

6時間目の開始を告げるチャイムが鳴る。
事実上、こいつもサボリになる。
それでも麻生は一向に教室に戻ろうとしない。
俺も当たり前にその場を動かなかった。
麻生は、じっと俺のタバコの煙を見つめていた。

麻生の方を見ると何かを見透かされそうで、迂闊に直視できなかった。

「・・・どうして、雪村螢子なの?」

何がだよ、とは聞けなかった。
その答えを理解できる自信がなかったから。

「意味分かんねえ。」
「私とどこが違うの?」
「は?」

「優等生が好きなら、私だって優等生よ。
浦飯君に見てもらいたくて、ここまで頑張ってきたのに。」

ゆうとうせい。
その言葉を聞いて、思わず笑い出してしまった。

「ははっ!優等生って、螢子のこと言ってんのか?」
「・・・ッ他に誰が・・・!」

「あいつは優等生じゃねえよ。」


優等生じゃなくて、螢子だから。


そんな言葉を飲み込んで、自分自身には他の理由を言い聞かせる。

別に螢子は優等生じゃないから、俺は優等生が好きってわけでもなくて。
それは別に俺が螢子を好きだとか好きじゃないだとかいう裏づけでもない。

そんなちぐはぐな、矛盾しまくりの言い訳を、誰に聞かせるでもなく自分の中で繰り返す。

「本当に先生の言うことだけを聞く優等生なら、俺と関わらないんじゃね?」

最初のほうで言ったように、あいつが俺を迎えに来るのは竹中の言いつけではない。
何故って、竹中は俺に直接言ってくるからだ。

「何それ・・・授業には毎回出てるじゃない。成績もいいし。」
「俺みたいな不良と比べるなよ。授業に出るなんて当たり前だろ。俺が駄目すぎんだよ。」

自分の言った言葉に、自分で納得する。
ああ、そういうことだったのか。なんて。

心底悔しそうな顔をする麻生を横目に、すくっと立ち上がった。

「・・・一緒にサボらないの?授業、出ないんでしょう・・・?」
「帰るんだよ。お前と一緒にサボりたくねえ。」
「ふーん・・・。」

まだ座ったままの麻生を横目に、屋上の扉を開けた。

『!!』

扉の奥に続く階段。
暗くて、普通の奴なら誰が居ても声をかけられなければ気づかないだろう。
でも、一般人を超えた俺の能力は、しっかりとあいつの姿を捉えた。

そこにいたのは、他ならぬ雪村螢子だった。

いつからいたのだろうか?
ただ立ち聞きしていただけだろうか?
き、聞かれてまずいこと・・・言ってねーよな?自信ねー・・・。

「おま・・・いつからいたんだよ?」
「・・・。」
「おい、螢子?」
「帰る、の?」
「お・・・おお。」
「そ・・・。」

いつになく沈黙の時間が長い。
それにしても、もう6時間目は始まっているはず。
面目上「優等生」のこいつが、なんで此処にいるんだ。

「じゃな。」
「・・・待って!」
「あ?」

「一緒に、帰ろ?」
「!」

一緒に帰ろう、なんて誘われたのは中学生になってからは初めてのことで。
しかも暗い、屋上へと続く階段で螢子の表情がつかめないもんだから、
俺はなんと答えたらいいのか見当もつかなかった。

「んだよ。6時間目には出ねーぞ?」
「竹中先生なんだから、少しくらい遅れたって大丈夫よ。
一緒に授業出て、一緒に帰ろうよ。」

それを言うためだけにずっと待っていたのだろうか。
螢子はそれだけ告げると階段をカンカン、と降りていった。
俺はそのまま外に出て、螢子が出てくるまで正門前で待つことにしよう、と思ったが、
踊り場で螢子が振り返って、目で念を押したから、仕方ないので後ろを追った。

「すいません、遅れました。」
「浦飯!言うことはないのか!」
「・・・すいません。」

教室に入ったとき、皆が珍しく螢子のことも不思議そうな目で見ていた。
久々に参加した授業では、約3名を除く、クラス全員の視線が痛かった。
1人は螢子、1人は桑原、最後の1人は屋上でサボってる「優等生」。

結局怒られたのは俺だけだったけど、
無言の帰り道は、理不尽な気持ちを溶かしてしまうほど気分が良かった。

END


あとがき

私的にはかなり気に入らない、大嫌いな話。
魔界に行くちょっと前だから、
もう「愛」とか理解してる頃だと思って、それ前提で書きました。
(「恋した記念日。」とかなり食い違う/笑)
ああいう人間って逆にすごくモテると思うんですけどね。
幽助の言い訳は、とにかくめちゃくちゃなものにしたかったので、
私自身も理解できませんw
幽助モテモテ小説シリーズはまだ書きたいです。
プロフィール被らせたのは微妙に共通点を出したかったからです。