有効期限

「愛してる」の有効期限は、いつだろう?

綺麗な教会に鐘の音が響く。
普段は髪を上げている新郎も、珍しく髪を下ろして白い衣装に身を包んでいる。

きっとこれは結婚式なのだろう。
私はこの新郎をよく知っている。
そして、彼を祝う人たちも。

新郎の横で誰よりも幸せそうな笑顔を浮かべている女性は、私ではない。

それは無性に苦しいことのはずなのに、私は目が逸らせない。
私はどうして今、こんなものを見ているの・・・?

そう考え出したら止まらなくて、涙が出てきた。


「・・・子、螢子!」

幽助の声で目が覚める。
どうやら、夢だったみたい。

「大丈夫か?随分うなされてたけど・・・。」

ああ、本当だ。
額に随分汗をかいている。
たしかに、嫌な夢だった。

そうだよね。
安心してたらいけないんだよね・・・。

幼馴染だから。
中学生のときは安心していた。

婚約者だから。
今、安心しきっている。

でもよく考えたら不安定な関係。
今にも崩れてしまいそう。
幽助は指輪とか、そういうのにこだわらない人だけれど・・・。
確かな証拠が欲しいよ。

「愛してる」の言葉なんて、幽助が魔界に行く前の1度きり。

恥ずかしがっているのは分かってるの。
だけど、たまには聞きたい。


1度きりの「愛してる」はいつまで続いてるの?


夢のようなことにはなってほしくないから。

「・・・幽助。」
「え?お前泣いてるの・・・か?」

「私のこと、愛してる・・・?」

その質問を口に出すのに、ひどく時間がかかった。
そしてその倍以上の勇気も必要だった。

幽助は、驚いた顔をしていた。

「夢でね、幽助の結婚式の夢見たの。
でも、隣に居るのは私じゃなくて・・・なんか・・・怖くなって・・・!」

泣きじゃくって取り乱す私を幽助は優しく、強く抱きしめてくれた。

「不安だった?」
「・・・うん。
幽助が言ってくれた『愛してる』の有効な期間はいつまでかな、って・・・。」
「あほみたいなことで悩んでるんだな・・・。」
「・・・あほって・・・!」

「今だって愛してる。明日も。明後日も。
これからもずっと螢子だけを愛してるよ。絶対。」

「本当・・・?」
「本当。」

愚問だったかな?
幽助の真っ赤な顔を見て本当に嬉しくて。
不安は消えないけれど、今だけ喜んでも、いいでしょう?

たまに心も遠くなってしまうけれど、あんな未来は見たくないから。
もっと近くにいてね、幽助。


「ちなみに俺の賞味期限は短いけど。」
「・・・ばか。」


END


あとがき

奥華子さんの「小さな星」がモチーフ。
この曲は幽螢に合う気がします。
もっと螢子ちゃんを悩ませたかったんですが、
これ以上仲直りを遅らせると私が書けなくなるので(笑)