Who is a winner?

「幽助は普通の喧嘩で負けたことあるんですか?」

それは、蔵馬の一言から始まった、何気ない会話風景。

「はい!あたし知ってるさね〜。1度あるよね♪」
『ああ!?なんでオメーが・・・。』
「ほら、さやかちゃん!」

幽助は、ああ、そういえば。と、あからさまにたった今思い出した顔をした。
そしてその直後、何か疑っているような表情を見せた。

『あ?でも俺霊体じゃないときも1度負けたことあるぞ。』
「え?いつですか?」

蔵馬が当たり前のような疑問を出すと、幽助は言葉を詰まらせた。

「・・・?言えないんですか?」

喧嘩をすれば負け知らず。
まあ、戦いで負けたことは勿論あるだろうが。
どんな人間も逆らえない(螢子、蔵馬除く)。
伝説の不良とすら謳われた彼が、負けたことがある、と言ったら、
誰もが不思議に思うことだろう。

『いやー・・・あー・・・。』
「何かまずいことでも?」
『いや、別に・・・。』
「じゃ、話してください。」

蔵馬に半ば強制的に促されて幽助はしぶしぶと語りだした。

――――――――――――

あれは俺が10歳の頃。
あの頃の俺は螢子にちょっかいばかりかけていたような気がする。

ランドセルの中に蛙入れたりもしたし、
遊びに行こう、と誘って森の中で置いてけぼりにしたりもした。
今同じことをやろうものなら、ビンタ100発だな・・・。

ちなみに俺はあの頃から喧嘩ばっかしていた。
卒業アルバムの「暴力団に入りそうな人」No.1だったくらいだしな。
小4にして、既に皿小の番長格だった。

『おい螢子!ノート見せろ!』
「やーよ。自分でやってよ!」

だからといってまだ恐れられている頃でもなく。
周りの奴らは中学の時みたいに俺を遠巻きにはしていなかった。
むしろ仲が良かった。

ある日、俺よりも弱い、6年最強の奴ら4人組が喧嘩を売ってきたんだ。
俺も4年生で喧嘩を売ってくる奴がもう居なかったから、退屈しのぎに相手してやった。
もちろん圧勝。

今思えばそのせいだったんだ。
俺が人生初の「負け」を経験したのは。

『おーい螢子、帰るぞ・・・。』

その翌日。
おふくろが出かけているからおっちゃんに晩飯でも作ってもらおうと思って、
珍しく螢子を誘って帰ろうとしたとき。

教室に足を踏み入れた俺の目に入ってきたのは、
上級生達に泣かされている螢子の姿だった。

『ちょ・・・お前ら何してるんだよ!』

復讐されたことは多々あれど、螢子にその矛先が向いたことはなかった。
復讐だ、と一瞬で理解し、頭に血が上ってしまった俺は、
上級生達に向かって拳を向けて突っ込んでいった。

「ストップうらめし!」

いきなり「ストップ」と言われ、体が止まってしまった。

―――あ、しまった。

そう思ったときには遅く、そいつらは螢子から何かを奪って、扉を開けて走り去っていった。

『・・・!螢子、大丈夫か!?』
「ゆーすけ・・・。」

螢子に殴られた跡はなかったが、肩を震わせて、泣くのをこらえていた。
俺が頭に触れた瞬間、我慢していた涙がボロボロと落ちた。

『・・・何かされたのか!?』
「お・・・もり・・・。」
『重り?』
「お守り・・・おばあちゃんにもらったお守り・・・!とられちゃった・・・!」

螢子のお守り。
それは、死んだ螢子のばあさんに形見としてもらったものだった。

俺は螢子がそれを1番大切にしてることを知ってた。
だから俺はあいつの筆箱や靴やランドセルをどこかに隠しても、
そのお守りだけは絶対に隠さなかった。というか触らなかった。

『じゃあ、取り返してきてやる!先帰ってろ!』

螢子の顔を見ずに飛び出したからどんな気持ちだったのか今も分からねえけど、
巻き込まれて迷惑だとしか思ってなかっただろうな。

走って下駄箱に向かうと、俺の下駄箱に紙が1枚入っていた。


うらめしゆう助

おまもりがほしかったら
皿屋しき2丁目の公国にこい。


6年生のくせに漢字能力がダメすぎるのは俺も同じだから特に気にしなくて、
その紙をくちゃくちゃにして地面に落としてもう一度行こうとした。
んで、なんで覚えてるのか分からねえけど、
そんときそのゴミ拾って昇降口のゴミ箱に入れなおしたんだよ。
いっつも螢子に「ゴミはゴミ箱に!」って言われてたからだろうな。

急いで2丁目の公園に向かうと、そこには既に上級生達が仁王立ちしていた。

「よく来たなうらめし!どうしてこんな所に呼んだか分かってるか?」
『復讐だろ〜どうせ!』
「その通りだ!」

そう叫ぶと、上級生は飛び掛ってきた。
まあ、前日の喧嘩で相手の弱点とかはよく覚えてたし、
きっとまともにやっても苦戦しなかっただろう。

でも、違った。

俺の頬を奴らが一発殴って、俺が殴り返そうとしたとき、
4人の中でのリーダーであろう男が、俺に話しかけてきた。

「言っとくけどな。お前が負けなかったらお守り返さないぞ!」

その瞬間、俺の拳が止まった。

上級生達はチャンスと言わんばかりに俺を文字通りタコ殴りにした。


反撃は、しなかった。



殴られ始めて何分経ったか。
ボッコボコになって倒れた俺を嬉しそうに見下して、
上級生達はお守りを落として楽しそうに帰っていった。

『あー・・・届けに行くか・・・。』

ひどい体の痛みをこらえて、どっこいしょ、と掛け声付きで起き上がると、
お守りを握ってゆっくりと歩き出した。

雪村食堂につくと、裏口に回ってチャイムを押す。
んで、そこで俺はあることに気づいた。


こんな姿見たら、絶対螢子心配する。


今思えばどこにそんな確証があるんだ何自惚れてんだガキ、って感じだよな。
でもあの頃は螢子は俺がひとつでも傷付けて朝登校すると、
「また怪我したの」「いい加減やめたら」「いつか死ぬわよ」ばかり言ってたから。

ああ、ごめん話戻すな。
だから俺は大声で『螢子!まどからのぞかずに玄関に来い!』って叫んだ。

ダンダンダン!

慌しさが分かるような階段を下りてくる音が聞こえると、
俺は玄関の引き戸を少しだけ開けて、お守り握った右腕だけ突っ込んだんだよ。

「幽助・・・?」

そりゃあ扉の間から右腕だけ伸びてたら驚くよな。
俺は『幽助だよ!ほれ!受け取れ!』とだけ言って、
見えない螢子の手にお守りを渡そうとした。

そしたらここで想定外のことが起きた。
螢子の手が触れて、腕を引っ込めようとしたら、螢子が腕掴んできやがったんだ。
本気出したら振りほどくことくらいできただろうけど、
強い力で引っ張ったら千切れやしねえか、とかアホなこと考えてさ。

螢子が俺の腕を掴んだまま引き戸をガラガラと開けると、俺と目が合った。
今でもはっきりと思い出せる。
あいつは大きく目を見開いてた。
これ以上ないってくらいぱっちり。

まあ当たり前といえば当たり前。
俺の顔は紫だとか赤だとか青だとかかなりカラフルなことになっていたし、
膝も肘もすりきずでいっぱいだったからな。

見開かれた目が閉じたかと思えば、下を向いて、一気に涙が溢れ出した。
おいおい、なんでお前が泣くんだよ、と思いつつ謝っていたのは昔から変わらないな。

『け、螢子?』
「なんでそんなに怪我してんのー!」
『・・・転んだ。』

「嘘つけー!」

『うん、嘘・・・。』
「ひっく・・・なんでこんな怪我してまで・・・!」
『いいじゃん。ほら、お守り取り返せたんだし。』
「・・・。」

螢子は一向に泣き止まなかった。

『・・・悪かった。俺さー、お前の泣き顔見たくないんだよ!』
「じゃあ喧嘩するなこの単細胞!」

ここでしんみりしたことにならないのがあれだ。ガキなんだよな。
また口論が始まったんだよ。
でも途中でそれは終わったけど。

「お、幽ちゃ・・・っておい!幽ちゃん怪我してんじゃねえか!」
「あらほんと!さては、また喧嘩したね?」

俺の前以外で滅多に泣かない螢子の泣き声を聞いたおっちゃんとおばちゃんが
食堂の方からやって来た。

「手当てしてやらあ!」
『や、いいよ!』
「何言ってるの!バイキン入っちゃうわよ!」
『いいってば!代わりに晩飯食わせて〜!今日おふくろいねーの!』

おっちゃんは、はいはいと笑って食堂の方へ戻っていった。
俺は螢子のおふくろに連れられて雪村家のリビングで手当てを受けに行った。
そういえば、後ろから向けられ続けた螢子の目線が痛かったな。


ちなみにあの上級生達にはその次の日に螢子と一緒に仕返しに行った。
奴らは俺のパンチと螢子のビンタの前に成す術もなかった。

「お守りとられてなかったら、あの場でボコボコにしてやったわよ!」

最後に奴らに吐き捨てた螢子のセリフを、俺は一生忘れない。

――――――――――――

「・・・つまり、幽助は螢子ちゃんにしか負けたことがない、ってことですね?」

幽助が話を終えると、蔵馬は笑って言った。

『ああ!?何言ってんだオメー!』
「だって、泣き顔に負けたんでしょう?
上級生は翌日仕返ししたなら±0じゃないですか。」
『う・・・。』
「あはは!幽助一本取られたね〜!」



Who is a winner?
果たして、真の勝者は誰だろうか?



END


あとがき

わ、わりと綺麗に終わらせることができた・・・!
今の幽助が昔を思い出してる場面は、描写が難しかったです。
ちなみに蔵馬、ぼたん、幽助の3人で屋台で話してるんだと思ってください(笑)
その辺は想像にお任せします。
後日蔵馬がからかうネタになったことは言うまでもありませんw
各表現は色々な漫画からインスパイヤいたしました(笑)
真の勝者は上級生なのか、螢子なのか、はたまた蔵馬なのか。