ココロゆらゆら

ゆらゆら ゆらゆら

(揺れて、る?)

本当に揺れているのが自分の体なのか確信が持てないほど微小の揺れを体全体に感じる。
ゆっくりと目を開くと、目の前には、少しだけ揺れる景色と、茶色の髪。

「・・・サドぉ?」
「んあ、起きたんですかィ。」

薄い茶色の髪といつものにおいで、神楽はすぐにそれが沖田だと分かった。
そして、自分がその人の背中の上にいることも。

(なんで、こいつにおんぶされてるアルか・・・。)

必死で記憶を辿るも、川原で昼寝をしていたことしか思い出せない。
そこからこの状況になるまでの過程がまったく分からないのだ。

「なんで?」
「オメーが川原で倒れてたからだろィ、くそチャイナ。」
「ウルセーへたれサド男。昼寝してただけアル。」
「・・・アレのどこが昼寝でィ。自分の体温と俺の、比べてみろ。」
「あー、熱いアルな。」

傘も持たずに馬鹿だろう、夜兎のくせに、と皮肉をもらす沖田の声が遠くに聞こえる。

(・・・熱だから?)

考えてみれば、確かにだるい。
静かに負われているのもおそらく体が上手く動かないからだろう。

心臓が、いつもより早く動いていることも、きっと熱のせいだろう。

「・・・降ろせヨ。」
「は?」

その言葉は、神楽の精一杯の抵抗だった。
やめとけよ、と珍しく(気持ち悪いほどに)親切な沖田の言葉を聞きもせずに、
沖田の手を振り解いて、後ろにピョンと飛び降りた。

否、正確には「飛び降りようとした」。

着地する寸前。
体は回転していないのに、頭がぐるんぐるんと回っている気がして、神楽はそのまま倒れた。

「それ見ろィ。」
「・・・。」

神楽は不服そうな顔で沖田を見上げた。
勿論、覗き込むその顔は「ドS」以外の何物でもない。

神楽に了承も取らず、沖田はもう一度神楽を背負った。
視界は、またゆっくりと揺れ始める。


ゆらゆら ゆらゆら


(蜃気楼も揺れてる・・・。)

こんなに暑くなるのなら、傘をちゃんと持って来ればよかった。
自分の今置かれている状況をすべて自分が傘を忘れたせいにして、
この不本意な「場所」にいるという事実をどうにか自分に納得させた。

(広くて、あったかい。)

思えば神楽は沖田の背中などちゃんと見たことがなかった。
実生活で他人の背中をじっくりと見る機会など少ないものだが、
実際に背負われ、触れてみることで、神楽はその「背中」を銀時とも父親とも全く異質なものだと感じた。


他人の背中じゃなく、男の人の背中。


そう考えた瞬間、さらに鼓動が早くなる。

(このままだと、伝わってしまうような気がするアル・・・。)

「何が」伝わるのかまで考えようとはしなかった。
むしろ、考えたくなかった。

「・・・やっぱいい。降り、る。」
「・・・まだ言ってんのかィ?」
「重いダロ。」
「はあ?」

(んなこと気にしてんのかコイツ。)

いつもいつも喧嘩の度に腹やら脚やら露出してる奴のセリフか、と沖田は思った。
神楽が「恥じらい」というものを持っているなどとこれっぽっちも思っていなかったのだ。

熱があるからか、いつもより大人しい神楽が沖田には少し可愛らしく見えた。

(俺も熱があるんですかねィ・・・。)

「・・・オイ、シカトしてんじゃねーヨこのサドが。」

背中から聞こえた神楽の声は少し不機嫌そうだった。

「今降ろしてもフラフラだろィ?」
「お前に背負われるのは癪アル・・・それに・・・。」
「それに?」


「・・・迷惑だろうから・・・。」


「・・・ブハッ!」

何が面白かったのか、沖田は盛大に笑い出した。
沖田にも、勿論神楽自身にも理由はまったく分からない。

「アホか、お前。」
「何が・・・!」

「俺ァ今日巡回だってのにバズーカを屯所に忘れて来ちまってね。
背中が軽くて軽くて仕方ないんでさァ。」

「!」

「チャイナ。オメー一人分ぐれー軽いモンだ。遠慮せず乗っとけ。」

「・・・うるさいアル。」

憎まれ口を叩きつつ、神楽は目を閉じた。

自分と同じ速さの鼓動が伝わってくる。

「お前も、は・・・やいアル・・・。」
「へ?」

後ろを見ると、すでに神楽はすうすうと寝息をたてて眠っていた。

(寝ちまった、か・・・。)

沖田は口角を少しだけあげて、満足そうに万事屋へ向かった。


二人が去った後の川原に、
空になった酢昆布の箱と、バズーカが仲良く並んでいた。


―――心ゆらゆら 「キミ」に傾く・・・?―――


END


あとがき

沖田・・・。
バズーカで巡回するのはよそうぜ(笑)
一応沖田は自分の気持ちに気づいている設定です。
神楽こんなに大人しくないよなあ。