トキメ記憶は何処だ!?

「あ、飛影だ。」

幽助は久々に、木の上で寝ている飛影を見つけた。
いつも飛影は木の上で寝ていても、必ず奥の方で、
少なくとも下から見える場所で睡眠をとることはなかった。

(まあ、今日は天気もいいからな・・・。)


―――ほんの悪戯心だったのだ。
彼がそれを「悪ふざけ」だと認識するには少しばかり頭が足らない。
ただそれだけ。

ゆっくり、ゆっくり、足音をたてないように木の真下に立つ。

「わ!」

大きな声を出すと、飛影はパッと目を開き、幽助を見て怒った。

『幽助!貴様何をしてい・・・る!?』

時すでに遅し。
飛影は木の上からまっさかさまに落ちてしまった。
普段の彼なら楽に受身をとっていただろう。
だが、寝起きの彼にそれは少々難しかったようだ。

「飛影!いやー、わりいわりい。ちょっと驚かせるつもりでさ・・・。」

慌ててかけよる幽助に、飛影はにらみをきかせて一言。


『誰だ、貴様・・・?』


「え?」

―――――――――――

ピンポンピンポンピンポン!

乱暴に鳴る玄関のチャイム音。
この鳴らし方からして、押しているのが誰かは容易く予想できる。

ガチャ

「蔵馬ー!助けてくれよー!」

ドアの向こうにいたのは予想通りの人物で、
その肩からはツンツンした黒髪が見えている。

「いくら一人暮らしするようになったからって、一応近所迷惑も考え・・・。」
「それどころじゃねえんだって!」
「え?」

『下ろせ貴様!俺に触るな!』

・・・飛影?
飛影が怒っていることよりも、幽助におんぶされている事実に思わず笑ってしまいそうだった。

「どうしたんだ飛影?」
『なんだ貴様。気安く話しかけるな!』
「・・・飛影?」

あまりにいつもと違い生意気な態度の飛影に向けて少々妖気を放出してみた。

少しばかりおどかしてみよう。
そんな軽い気持ちだったのに。

『な・・・。』

相変わらず憎まれ口を叩こうとする飛影は、予想以上に俺におびえていた。
やれやれ、また面倒なことになったみたいだ・・・。

「とりあえず、上がって?」
「お邪魔しまー・・・って桑原もいるのか?」
「勉強会の途中だったんですよ。」

未だおびえた飛影をおんぶしたままで器用に幽助は靴を脱ぐ。
奥の部屋に行くと、頭を抱えて問題を解いていた桑原君がこちらを向いた。

「よー浦飯・・・って飛影もいんのか。」
「それがちょっと複雑な事情みたいで・・・。」
「ああ?」

「幽助、事情を説明してください。」
「頭打って記憶失くしたみてえなんだよ飛影。」

幽助のこの説明だと普通の人は理解できないだろう。
いや、言葉の意味は理解できても、それを頭の中で整理できないはずだ。
しかし、あらかじめ「大方こんなところだろう」と考えていた俺とは一瞬で納得した。

やっぱり、そういうことか・・・。

『おい!このロープをほどけ!なんだコレは・・・魔界の道具か!
こんなことをして、ただで済むと思うなよ貴様ら。俺の剣技の餌食にしてくれる・・・!』

静かに座りそうにない飛影はイスにロープで縛られていることが気に入らないらしい。
・・・当たり前か。

「飛影?少し静かにしていてください。」
『・・・。』
「すげえコイツ本能で蔵馬を認識してやがる・・・。」
「ゆ う す け ?」
「ナンデモナイデス・・・。」

さて、飛影は大人しくなったのでそろそろ本題に入ろうかな。
まずは、記憶が若返っただけなのか、失ってしまったのか。
それを確かめなくては。

「飛影。俺たちのことがわからないのは分かりました。
何か覚えていることはありますか?」
『貴様ら何か勘違いしているようだな。忘れるも何も、貴様らなど見たこともない。』

ああ、後者か・・・。
3人で半ばあきらめたようにため息をつく。

魔界の植物などで記憶を失ったのなら取り戻すのは簡単だ。
でも、普通の事故で頭を打ったのでは・・・難しいな。
もう一度衝撃を与えたら戻るだろうか。

そんなことを考えていた矢先、問題はもう1つ起こった。

ダンダンガシャン!

いきなり部屋のベランダから聞こえた嫌な音。
普段からよく聞いているからか、あまりいい予感はしない。

「よお、飛影!面白いことになってるらしいじゃねーか。」

俺のベランダを破壊して家の中に(無断で)入ってきたのは、躯だった。
『面白いこと』って・・・。
面白いといったら面白いが、面倒といったら面倒なわけで。
そもそも誰に聞いたのだろうか。

『・・・誰だ?気安く呼ぶな!』

プッツン。

・・・?
何か変な音が聞こえた気がした。
音の発信源が分かったときは、怒りに燃える躯がまさに今攻撃を仕掛けようとする瞬間だった。

「飛影〜・・・てっめえー!!」


『落ち着け躯!』


「「「「え!?」」」」

驚いたのは躯だけではない。
俺や幽助、そして桑原君も。
さっきまで躯に敵意丸出しだった飛影がいきなり躯の名前を呼んだのだから。

躯の拳が飛影の鼻の前でピタリと止まる。
間は、わずか1センチ。

「飛影・・・?」

少々乙女ちっくになっている躯に思わず噴出しそうになるが、
そんなことをしたら瞬殺されることなど百も承知。
本能で理解した桑原君と幽助も笑いをこらえていた。

『貴様なぜ攻撃しようとした。』
「お前がさっきまで俺を忘れてたから・・・っ!」
『俺がお前を忘れるわけがないだろう。』
「さっきまで忘れていただろう!」

ついにこらえきれなくなった幽助がいい雰囲気(?)の2人を茶化す。

「ははは飛影!愛の力で記憶を取り戻したってかあ!?」
『ふざけるな貴様!邪眼の力を見せてやろうか!?』

しかし相変わらず俺たちのことは忘れているようだ。

「飛 影 ?」

『・・・。』

俺が優しく微笑むと、飛影は顔を真っ青にしてうつむいた。

「じゃあ俺たちも攻撃したら思い出すかもな!よーし、れーいがー・・・。」
「「やめろ幽助っ!」」

明らかに危ない提案をした幽助を必死に止める俺と桑原君。
確かに、躯のことを思い出したとはいえ、俺たちのことは『まだ知らない』状態。
やはり逆に霊丸で衝撃を与えたほうがいいのだろうか・・・?

「よし!じゃあ飛影の妹連れてきてやるよ!」

幽助が思いついたように言った。
俺も確かにそれもひとつの方法として考えていた。
だが、ここには桑原君がいる。

「桑原、眠れ!」

そういって幽助は指を構えて霊丸を放とうとした。

「ストップ幽助!俺が眠らせますよ。」
「なんでいお前ら!俺を眠らすとか・・・ほげえ。」

俺が植物の花粉を桑原君の方へ飛ばすと、桑原君はまぬけな声を出して眠りに突いた。

「まぬけな声だな、オイ。」
「それはそうと幽助、霊丸はダメですよ・・・。」
「なんだよ!眠らせりゃーいいんだろ?」
「永眠しちゃいますよ。」

『貴様ら、俺を忘れているな・・・?』

放置されていたのが嫌だったのだろうか。
飛影は少しふてくされている。

『なぜあそこの汚い顔を眠らせる必要がある?
フ、まあ確かに少し静かになっていいくらいだがな。』
「・・・記憶が戻ったら確実に覚えているので説明は省きます。
とりあえず雪菜ちゃんを呼びました。」

『・・・!雪菜の居場所を知っているのか!?』


―――あ、しまった。


俺も幽助も同時に思った。
そうだ。俺たちと出会う前の記憶なら、当然雪菜ちゃんとも出会っていない。

「ええ、知っているんですよ。まあその経緯も記憶が戻れば分かるので省略するとして・・・。」

ピーンポーン・・・

「あ、来ましたね。」
「なんか早くねえか?」
「ぼたんとかと一緒に来たんでしょうね。櫂に乗って。」

『雪菜・・・!』

いつの間にかロープを躯に解いてもらっていた飛影は、急いで玄関へ走っていく。
・・・そうか、本当だったらこんな反応だったのか。
相当大切なんだろうなあ。
桑原君をちらりと見て、反対されるのも当たり前か、としみじみ思う。

ガチャ

「蔵馬さん、御用とは一体・・・って、飛影さん!こんにちは。」
『な、何故俺の名前を・・・!』

名前を知られていることに動揺する飛影。


その一瞬の隙をついて、躯が飛影の頭を力いっぱい殴った。


「!?な、なな何してるんですか躯!?」
「あ?頭打って忘れたなら、こうしたら戻るかなと思って。」

確かに俺も考えていたけど・・・だけど!
「手加減」という言葉を知らない躯に殴らされたら、飛影はもしかすると起きなくなるんじゃ・・・。

倒れた飛影の頭上には慌てる雪菜ちゃん。
当たり前だ。目の前で飛影が殴られて倒れたのだから。

「飛影さん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。普段から俺に殴られてるんだからよ。」

躯のフォローになってないフォローがすかさず入る。

―――――――――――

『う・・・。』
「「「飛影!!」」」

さすがに玄関に寝かせておくのはダメだろう。
そう思って俺のベッドの上に乗せておくと、意外にも飛影は早めに目を覚ました。

「飛影!俺のことが分かるか!?」
『何を寝ぼけたことを言っている。
・・・この頭の上のたんこぶはなんだ・・・?』
「はははっ!なんでもねえよ!」
『躯、貴様か・・・?』
「黒龍はよせ!ここは蔵馬の家だぞ?」
『蔵馬の家・・・?確かに・・・。』

幽助のことも、俺の家のこともきちんと覚えている。

「・・・雪菜ちゃん、飛影起きたよ。全部覚えてる。」
「本当ですか!?」

飛影が寝ている間、寝ている桑原君を看ていた雪菜ちゃんを小声で呼ぶと、
雪菜ちゃんはほっとした顔で寝室にいる飛影の元へやってきた。

「良かったです、飛影さん・・・!」
『・・・貴様は呼んでいない。』
「お怪我はありませんか?」
『・・・ない。』

飛影の照れ隠しの憎まれ口もさらりと流して身を案じる。
さすがだよ雪菜ちゃん。

さて、さっき眠らせてしまった桑原君の様子も見ないと。
リビングに行くと、桑原君は既に起きていて、明後日の方向を見つめていた。

「・・・桑原君、起きてたんですか?調子はどうですか?」
「・・・誰だ、オメー?」


「・・・え?」


そして、新たなる波乱はやってきたのだった。

END


あとがき

くそふざけたタイトルでごめんなさい(笑)
幽助verと蔵馬verは作りたいなあとか思ってますが、桑原verはないですよw
だって雪菜ちゃんいるだけで記憶戻りそうだもん(笑)
蔵馬が触ろうとしたら「雪菜さんに手を出すなー!あれっ戻った!」みたいな!
初期飛影さんによくしゃべらせてみました!
あの頃の飛影は若かった・・・。
蔵馬の「永眠しちゃいますよ。」が書きたくて、
雪菜ちゃん呼ぶエピソード加えました(笑)