思春期少年物語

面倒くさい。

面倒くさいめんどくさいめんどくさいめんどくせえ!

俺は自分の中に浮かぶただひとつの言葉をひたすら繰り返した。

なんだってに学校に来なくちゃいけねえんだ。
今日は放課後累中の奴らと喧嘩だから午前中は菓子でも食ってゴロゴロしようと思っていたのに。

ああ、まったくもって面倒くさい。

ずかずかとわざわざ音を立てて廊下を歩く。
5分休みに廊下で友達と語り合う女子が俺を見て道をあけた。

別に今さら、怖がられて辛いとも思わないけれども。

イライラしながら、俺は改めておふくろを恨んだ。
なーにが「あんたもう一週間も学校行ってないじゃない。」だ。
ババアに蹴飛ばされなかったら、俺は間違いなく今ここにはいなかったはずだ。

イライラの加速度を上げて、教室のドアの取っ手に手をかける。
珍しくカーテンが閉まっていて、5分休みに何やっているんだと思いながらガラガラ、と開けた。

「あ、浦飯君・・・!」

足を踏み入れる瞬間、教室の前でうろうろしていた男子が俺に声をかけた。

「あ?」

ギロリとにらむと、そいつは2,3歩退いて目をそらした。
・・・なんで声かけてきたんだあいつ。
というより、確か同じクラスだったと思ったがなんで教室の外うろうろしてんだ。


俺は、このときこいつが名を呼んだ理由をちゃんと聞いておけばよかった、とまだ後悔している。




『きゃああああ!』




教室の中へ入った途端、女子の悲鳴が聞こえて、思わず目を閉じる。
ゴキブリでも出たのかと思って目を開くと、そこはユートピア・・・じゃねえ。

そこは5分間だけの女子更衣室と化した、初めて見る教室だった。
つまり、外にいた男子はトイレにでも行っていて、教室内に体操服があるのに取りにいけないのだ。

「う、ううう浦飯君・・・!?」

俺はしばらくぼーっとしてしまって、女子が恥ずかしがって体操服で体を隠していることに気づいていなかった。
俺の名誉のために言っておくが、見とれていたわけではない・・・多分。

つまり、この女子は「出て行って」と言えないのだ。

「あ、わ、わりい・・・!」

焦りながら教室を出て行こうとすると、後ろから体育館シューズ(らしきもの)が飛んできた。
ゴッという音をたてて落ちるそれには「雪村」という名前が書かれている。

「何やってんのよ幽助え!」

そしてそれを投げた本人の声がズキズキする頭に響いた。

「だから今出て行こうと・・・ってお前服着ろよ!」
「隠してるじゃない!見ないでよ!」
「お前が呼んだんだろゴリラ!」

捨て台詞を吐き捨てて乱暴に扉を閉めると、女子の悲鳴を聞いて駆けつけた他のクラスの奴らが俺を見ていた。
睨んでいる女子、笑っている男子、ニヤニヤしている・・・桑原。
俺は急に恥ずかしくなって、下を向いてさっき来た道を戻って行く。

・・・帰ろう。

たったの3分くらいだったはずだが、俺は1日中喧嘩をしているよりずっと疲れてしまった。
階段を降りて行く途中、女子が急いで俺の横を通り過ぎて行った。
チラリと俺のほうを見て、クスクスと笑っている。
どうせ「浦飯でも照れるんだ」とか思っているのだろう。

くっそー・・・。

「幽助ー覗きが趣味だったの?」
「螢子・・・てめ。」
「はいはい、怒らないの。」

眉をしかめたまま他の女子と同じように体育館シューズを持って体育館へ向かう螢子と軽く会話を交わす。

「・・・螢子。」
「何?」


「なんでブラジャーつけてんだよ。」


ドゴッ!

さっきより2倍近く大きい音と、鈍い痛みが俺の体へ伝わってきた。

「変態!」

そしてさっきの俺より2倍近く顔の赤い螢子が体育館シューズを拾って体育館の方へと走っていった。
腹いせに言ったのだが、思った以上に痛い仕返しだった。

「・・・いて。」

今日この後ある喧嘩で負うであろう傷より何万倍も痛い頭をさすりながら昇降口を出て行く。

そういえば今日まともに会話を交わしたのは螢子だったな・・・。

そんなのいつものことだが、今日はいつもより「学校」との距離を感じたせいか、少しばかり寂しいと思った。
みんなに怖がられているのは慣れているものの、痛みにはきっとなれないだろうと思う。

「話せる奴がいるなら、学校行ってもいいかもなあ・・・。」

勿論、今日のような目は二度とごめんだ・・・。

END


あとがき

中学2年生って可愛いですよね(笑)
こういう日常があったら面白いなーって思って。
幽助は意外にウブだといいっていうかこういうので動揺していたら大変面白い。
「もお〜男子!覗かないの〜!」みたいなノリ・・・かわいいなあ。
中学生ってバカだなあって今では思いますね。
あ、でもこのとき幽助たちは中3ですよ。