両成敗?

「ぼたん。」

薄暗い部屋の中、いつもより優しく彼女の名を呼ぶ。

「ぼたん。」
「・・・何さ。」

2度呼んでも相変わらずこちらを向かないぼたんは、
俺のしでかしたことに対して未だに怒っている。



2日前、「飛影と躯が大喧嘩している」との知らせを聞いて、急いで魔界に行った。
あの2人が喧嘩なんてするもんだから、百足の中はめちゃくちゃ。百足の外もめちゃくちゃ。
大喧嘩を止めろ、という案件ではなく、大喧嘩の後始末をしろ、ということだったらしい。

まあ別にそれもいいだろう。
さっさと終わらせて仕事をしなくちゃ。
そんなことをのんきに考えていたのが悪かった。

予想外だった、というより聞かされていなかったのは、
その大喧嘩がまだ終わっていないということだった。

そのことに気がついたのは百足の中を掃除中、いきなり地面が揺れたとき。
1キロ先でたっている砂ぼこり。ちらりと見えた黒龍。

もしかして。

「時雨・・・もしかして、あの2人まだ喧嘩中ですか?」
「ああ。こちらに来たらお前がどうにかしてくれ。」

どうにかしてくれ、と言われても、あの2人を止められる人物なんてそうそういない。

「だからお前を呼んだんだ。」

ああそうですか。
そんなことなら仕方がない、とため息ひとつ。

そしてようやく百足の中の掃除が終わった頃、
外から大きな悲鳴が聞こえ、2つの大きな妖気を感じた。
急いで外に出ると案の定御両人登場。

「飛影!躯!辺りがめちゃくちゃになるから喧嘩はやめ・・・。」

ギロリ

言い終える前に2人の棘のような視線が刺さる。
だからって、退くわけにはいかない。
2人のせいで魔界全体がボロボロになるなんて。

なんて悠長に考えていたら、目の前に黒い影・・・
が走ったかと思えば、瞬きの直後に目の前に現れたのは躯だった。

ああそういうこと。黒い影は飛影ってこと。
そして俺を躯の前に持ってきたのは、喋りが上手くない飛影の、
「これをやるから許してくれ」
という貢物ということだ。

ここまでされたら俺も強硬手段に出てやる。
そう思いローズウィップを取り出した瞬間、
2人が般若のような顔でこちらに拳を向けた。

「え?ちょっと待って・・・ひ、飛影ー!躯ー!」

バコ!

そうか、決着がつかないからって、八つ当たりの道具にされたのか・・・。

強く頭を(2発)殴られ、次に目が覚めたとき、
俺の目の前には、大粒の涙を流すぼたんがいた。



そして今に至る、というわけだ。

「ぼたん。」
「・・・。」

「まだ、怒ってる?」
「怒ってない!」
「怒ってるじゃないですか。」

「ぼたん。」

とりあえずこちらを向かせようと肩に手をかけると、思い切り手で払われた。

「蔵馬のばか!」

振り払った勢いで、ショックを受けていた俺のほうを向いたぼたんは真っ赤な顔をして、
体中水分でできていると言わんばかりに泣いて俺に怒り出した。

「幽助じゃないんだから・・・変な怪我して帰ってこないでくれよう!
いくら呼んでも返事がないから、死んだかと思ったじゃないかあー!」

嗚咽混じりの言葉で俺の胸の辺りをグーでぽこぽこと叩いてくる。
まだ何かを言っているようだけど、「ばか」しか聞き取れない。

「ぼたん。」
「うぇ〜・・・ばかあ・・・。」
「ぼたんってば。」
「・・・ぐす・・・何?」

「ごめんね。それと、心配してくれて、ありがとう。」

一瞬の静寂。
そして俺の胸にぼすんと頭をあずけて、ぼたんは小さな声で呟いた。

「・・・仕方ないから許してあげるよ。
でも幽助と同格扱いされたくなかったら、次からはちゃんと言って、よ。」
「はいはい、分かりました。」

眉を少し下げた表情で笑うぼたんは、次の瞬間目をとじて、俺の胸ですやすやと眠り始めた。

「え?・・・はは、泣きすぎ?」

小さな寝息ともっと小さな俺の笑い声が、明かりのついていない静かな部屋に響いた。

「明日の朝は、俺が先に起こすからね、ぼたん。」

幸せそうに眠る彼女にひとつだけ約束をして。

END


あとがき

「薄暗い部屋〜」の部分を書いたとき、
実は××(自主規制)しているシーンにしようと思ったんです。
でもな〜んか違うなーと思ってこういう内容に。
最近幽螢ばっかだったので蔵ぼが書きたくなってました。
なんか飛躯(なのか?)混ざってますね。すいません。
幽助にとても失礼なぼたんがかけて楽しかったw
オチを一切考えていなかったので、こんな終わり方。
いつもいつもオチが弱い。どうしたらいいんだろう。
ほんとすいませんオチ考えてから書くようにします←