ロケット花火のLOVE SONG

「雪菜さん、好きな人がいるらしいんだ・・・!」

ちょっぴり騒がしい1日の始まりの一声。

――――――――――――

この間、買い物に行ったんだ。雪菜さんと2人で。
姉貴に頼まれたモン買いに行ったんだけどな。
俺は雪菜さんと2人きりの幸福で浮かれまくってた。

だから、あんな罰が下ったんだよ。

雪菜さんは美しい。
美しいからよくナンパされる。
その日もナンパ・・・というより、告白だな。
そいつは前々から美しい雪菜さんが好きだったらしい。

「す、好きです!付き合ってください!」

街中でそんなことを言えば、勿論たくさんの人が振り向く。
それは、雪菜さんのためにアイスを買いに行っていた俺も例外じゃなかった。

「えっと・・・。」
「か、彼氏とかいるんですか!?」
「いませんけど・・・。」
「じ、じゃあ・・・!」

「でも、好きな人はいるんです。ごめんなさい。」

興味津々で2人を見ていたギャラリーは哀れみの目でその男を見つめ、去っていった。
肩を落とす男を横目に雪菜さんの元へ向かうと、アイスを渡した。

『大変ですね、雪菜さん。姉貴の言うこと聞いて、偉いです!!』

雪菜さんの「好きな人がいる」というのは、嘘だと分かっていた。
実は、以前姉貴が雪菜さんに、
「もし街中でナンパとかされたら、好きな人がいる、って言えば引き下がるよ。」
と言っていたのを知っているからだ。

「そうですか?」
『そうですとも!あれなら嘘だってバレません!』

そしてこの次の衝撃の一言が、俺を地獄へと突き落とす。

「嘘ではありませんよ?」


今、何と・・・?

『え、ええ?』
「好きな人なら、いますよ。」
『どどどっどどんな人なんですか・・・?』

俺は今にも泣きそうな顔を引き締めて、聞いたよ。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、雪菜さんは天使の笑顔で答えた。

「素敵な方ですよ。」

その後の会話は、ショックで何も覚えてねーや。

――――――――――――

「・・・で、お前はそれで落ち込んでるのか。」

俺は、泣き叫ぶ桑原を見て呆れてそう言った。
日曜日の午前中にいきなり訪れてきやがった奴に、
ちゃんとした態度をとるつもりは、さらさら無い。

「わざわざ俺まで幽助の家に呼んで、何の話かと思えば・・・。
俺だって今日はデートの予定だったんですけどね。」

『うるせー!貴様ら!雪菜さんに好きな奴!一大事だぞ!?
傷心の俺を慰めろおおおおおおお!!』

いつもはウザイくらいポジティブなくせに、
妙なところでネガティブに考えてやがる。
ポジティブに「好きな人=自分」だと考えられないのかこの野郎。

「・・・で、桑原君はそれが自分だとは考えないんですか?」
「そうだぞ!いつものお前なら考えるだろ!」

核心をついた蔵馬の質問に乗ってみた。

『・・・俺なわけねーだろ・・・。雪菜さんのお兄さんも見つけられねーんだ。
こんなふがいない男を好きになるわけがないんだ・・・!!』

かつて、この男がこんなにも落ち込んでいる姿を見たことがあっただろうか。いや、ない。
気持ち悪いくらいに落ち込んでいる。

これで、兄があの飛影だと知ったらどうするのだろうか・・・。
見つけられないのは、見つけてしまっているからだと、伝えるべきだろうか。

俺と蔵馬が返答に困っていると、桑原はいきなり立ち上がった。

『ああああ!もう嫌だー!』
「あ・・・桑原!?」

名前を呼ぶものの、時既に遅し。
かの男は俺の家を出て行ってしまった。

「全く、呼ぶだけ呼んでおいて・・・。」
「まあまあ。コーヒー淹れようか?」
「お願いします。」

ようやく静かになり、やっと普通の日曜日が送れる。
少し予定が変わったが、それは蔵馬も同じだろう。
2人で近頃の魔界についての話でもしよう。

そう考えていた矢先のことだった。

ピンポーン

「ああ?桑原か・・・?はいはい、ちょっと待てー。」

鍵のかかっていない扉を開けると、そこに居たのは螢子と雪菜ちゃんだった。

「あれ?蔵馬さんも来てるの?」
「ああ。今日約束してたっけ?」
「してないわよ。ちょっと遊びに来てみただけ。」

珍しくアポなしでやって来た螢子を不思議そうに見てから、視線を雪菜ちゃんに移す。

「雪菜ちゃん、桑原とすれ違わなかった?」
『?いえ、別に・・・。』
「そっか。」
「桑原君も来てたの?」
「んー、とりあえず2人とも中入れ。」

2人をリビングへ促し、さらに2人分のコーヒーを作る。

丁度良い。雪菜ちゃんにも話を聞こう。
俺は蔵馬にアイコンタクトでそう伝えた。

「雪菜ちゃんは今日、どうしたんですか?」
『あ、螢子さんとお茶してたんです。』
「そうですか。あ、ところで・・・最近桑原君、どうですか?」

『和真さんですか?』

蔵馬がそう質問すると、明らかに雪菜ちゃんの顔が変わった。

「どうしたの?」
『いえ、何も・・・。』

螢子が尋ねると、雪菜ちゃんは曖昧な言葉を返した。

『和真さんは・・・最近、お弁当を少し残してます。食欲がないのでしょうか?』
「雪菜ちゃん、心配ですか?元気がないのが。」
『え?ええ、まあ・・・。』

雪菜ちゃんは言葉を濁した。
いつもの雪菜ちゃんなら、きっと本当に「心配している」態度を示すだろう。
だが、今日は何か違う。
なんだか困っているように見えた。

蔵馬の質問は続いた。

「どうして元気がないのか、分かる?」
『・・・分からないです・・・。』

「じゃあ逆に。どうしていつも元気なのか、分かる?」

『え?』

雪菜ちゃんは目を開いて、蔵馬の顔を見た。
俺は全く話がつかめていないが、螢子はなんとなく分かっているようだった。

『それは・・・分からないです。』
「そっか。それなら、元気が無い理由も絶対分からないよ。」
『・・・。』

蔵馬は少し厳しい口調で言った。
別に、怒っているわけじゃないことは分かる。
表情も柔らかい。
でも雪菜ちゃんは少し小さくなってしまった。

「・・・最後の質問をしてもいいですか?」
『・・・はい。』

「雪菜ちゃんはどうして、桑原君が心配なんですか?」

顔を上げた雪菜ちゃんは、顔を真っ赤にした。
ここで、俺もようやく意味が分かった。

「・・・桑原のヤロー、すっげえ落ち込んでたぜ。」
『え!?』
「追いかけて行ったら?どっちの方向かくらいは、探れるだろ?」

『失礼します・・・!』

俺がそう言うと、雪菜ちゃんは急いで部屋を出て行った。
俺は螢子に事情を説明すると、質問した。

「なんで雪菜ちゃん困った顔してたんだ?」
「自分のせいだって思ったのよ。桑原君が落ち込んでるのが。」
「分からないって言ってたじゃねーか。」
「桑原君の想いを知った上で自分の想いが生まれたって思われたくなかったんじゃない?」
「あ?どういうことだ?」
「もういいわ・・・鈍感男。」

原因はよくわからないが螢子も気分を害したようで、家を出て行った。

静かになった部屋には、幽助と蔵馬の2人だけが残された。
俺達は、もうすでに冷たくなったコーヒーを飲んだ。



「・・・知ってますか、幽助?」

「雪菜ちゃんの好きな奴か?」


「ええ、素敵な人だそうですよ。」

「彼女の兄が卒倒しそうなほどか?」


「はは、勿論。」

「俺も拝んでみてえものだな。そのきったねえツラをよ。」

「・・・同感です。」



END


あとがき

よくわからないことになりましたね(滝汗)
桑⇔雪なのに、雪菜ちゃんは「雪→桑」、桑ちゃんは「桑→雪」だと考えてる感じ。
わかりづらいので、物語の補足を少ししておきます。
雪菜ちゃんが知っているのは「元気が無い理由」だけで、
「いつも元気な理由」は分かっていません。
別に桑ちゃんが自分のことを好きだから好きになったわけじゃないんだけど、
そうやって説明するのも自惚れているようで嫌だ、とか考えてます。
要は2人とも、お互いがいれば元気でいられるし、幸せでもいられるんですよ。
これは他のCPにも言えることですv
ちなみに、この曲大好きなんですよ(笑)