盗み聞きホリデイ

どうしよう。
出るタイミングを逃してしまった。
話は2,3分前に遡る。


ある土曜日の午後。
幽助の家に桑原君が遊びに来た。
幽助を起こしに来ていた私も含め、最初は3人で話をしていた。
お茶を入れに台所に行って、戻ろうとしたとき・・・。

「お前、雪村とは結婚しねえのか?」

私が聞いていない、と思って桑原君が出した話題のせいで、出るに出られなくなってしまった。
こうして今に至る、というわけである。

こんなの盗み聞きじゃない!
と思いつつ、聞くのを今さらやめることもできない。
お願い幽助、話を逸らして。

「あ?なんだよ。唐突によー。」

ばかー!

「バッカヤロ唐突じゃねえよ。プロポーズしといてよ、なんでいつまでもしねえんだよ。」
「や、だって・・・。」
「雪村も大学卒業して、もういい時期なんじゃねえのか?
お前もちゃんと年取ってるしよ。若作りだがな。」
「んー・・・。」

言葉を濁す幽助。
なんなのよ。
私はずっと待っているのに。

「したくねえのか?」

え!?

「は!?」
「いや、何も言わねえしよ。」
「お前ねえ・・・俺が螢子と結婚したくないとでも思ったのかよ。」
「じゃあ、さっきから聞いてるけど、なんでなんだよ?」

「・・・あれから5年以上経ってるしよー、螢子に俺と結婚する気があるのか分からないからさ。」

何言ってんのよこのバカ。
あんたが頭使ってんじゃないわよ。

「バッカじゃねーのかオメー!?
螢子ちゃんがオメーみてーなだらしねえ男を毎日毎日毎日毎日・・・
起こしに来てくれてんのがなんでなのかわかんねーのか!」
「なんでなんだよ。」
「はあ、まったくバカだなおめえはよ。
もう俺は何も言わねえよ。それにしても雪村おせえな。トイレか?」

お茶入れてたのよ。
大体鈍感にも程があるわ。
私が毎日学校帰りにここへ来るのは―――――・・・

「お邪魔しましたー。」

雪菜ちゃんと買い物の約束があるとかないとかで桑原君が帰った後、
幽助の部屋は気持ち悪いくらいの静寂に包まれた。
私はというと、未だに台所を出られずにいた。

「おい、螢子。」

いきなり声をかけられてびっくりする。

「いるんだろ?ってか話聞いてたろ?出て来いよ。」

少し不機嫌な声。
覚悟を決めて台所からリビングへと歩いていく。

「なんで出てこなかったんだよ。」
「だって、出て行けるような話題じゃなかったじゃない。」
「ああ・・・うん。」
「で、どうなの?」
「へ?」
「まぬけな声出してんじゃないわよ。どうなの?」
「何が?」
「『何が』ですって?」
「あ・・・ああ。」
「言うこと、あるんじゃないの?」

ここまで言わなきゃ言ってくれないでしょう?
22年間、彼氏できたことないのよ?
誰を待っていたのか、知ってる?

「・・・今さらだけど、いい?」
「どうぞ?」

「結婚してくれ。」

まったく、この男の頭の中の辞書に「ムード」という言葉はないのだろうか?
あきれながらも、返事はもう1つしかなくて。

「はい。」

互いに照れるなんて、我ながら初々しい。
そうね、今まで待たせた罰として蔵馬さんたちの前でもう一回プロポーズさせましょうか?
そう言ったらプロポーズするときより焦っていた。

悔しかったから、なんとなくキスしてやった。

END



あとがき

幽螢プロポーズ大作戦!(笑)
もうちょっとカッコイイシチュエーションのプロポーズの小説も
そのうち書きたいです。
ちなみにこの後さんざん桑原君たちにからかわれます。
お疲れ様(笑)