魔法のコトバ

「おめーら、いつも喧嘩してて飽きねえのか?」

飽きる、飽きないの問題ではない、と思う。
いつも「遅刻した」だの「手が早い」だの同じような原因だけど、
本人達は真剣に言い争っているのだ。

桑原君がなんとなく口にしたこの一言は、
特に私の重荷になるわけでもなく、「ある日の会話」で終わる。はずだったのだ。

「んだよ、桑原のヤロウ。」

そういえばこんなこと言われてね、なんて軽い気持ちで話したら、
思いのほか彼の気に障ったらしく、幽助は明らかに嫌そうな顔をしている。

『なんで怒ってるのよ。』
「怒ってねえけど。」
『「けど」?何?』

う。と小さな低い声を出して、黙り込んで、上目遣いでこっちを見る。
言いにくいことがあるときの幽助のクセ。

「桑原と会って、そんな話してんのかな、って。」
『・・・え?ヤキモチ?』
「ちっげえよブス!」
『な!?くっだらないことで妬かないでよバカ!』
「何ィ!?」

幽助はぶすっとして私に背中を向けて、床に座り込んだ。

ああもう。
なんでこんなにくだらないことで口げんかになるの?
その言い合いを楽しんでいない、と言ったら嘘になる。
だからって、好き好んで言い争いに発展させているわけではないんだもの!

幽助が原因のときは、幽助の「結婚しよう」で一時休戦。

でも今回は、自分でも思うけれど私が悪いから、
きっと私が「ごめん」というまで終わらない。

・・・私が悪い、のかな?

でも、口論に発展させたのは、間違いなく私だ。

もしかしたら明日にはすでに何事もなかったかのように接してくるかもしれない。
でも、それはなんとなく嫌なのだ。

「あー、もういい。今日は帰る。」
『え、なん・・・。』

言い終える前に、幽助は持ってきていた財布を持って、玄関へと向かう。

ああもう。
だから、なんでお互い素直に折れないの!

「ごめん」
これじゃ足りない気がする。
というより・・・不本意。
全面的に悪いときはこう言うけれど。

「許して」
却下。下に出るなんて、そんなの私のプライドが許さない。却下。

他に?謝る言葉?
ごめんね。すいません。許して。

どうしても素直になれない私は、こんな簡単な言葉も言えない。

素直になれなくてなんたらかんたら。
大好きだからなんたらかんたら。

なんか、ガラじゃない。


け・・・


ああ、そうか。

『幽助!』
「・・・。」
『幽助!』
「何。」
『幽助!こっち向きなさいよ!』
「・・・なんだよ!」

ひとつだけ、あった。




『結婚しよう!』




「へ?」

私達の、仲直りの言葉。

『これで仲直り。ね?』
「へ?あ・・・はあ。」

「こっちを向け」と言われて、勢いよく仰々しい顔で振り向いた幽助は、
毒気を抜かれてしまったようで、まぬけな顔で私の顔を見ていた。

『言われる側の気持ち、分かった?』
「お・・・おお。えっと。」

ぽりぽり

頬をかく。これも幽助のクセ。
照れてるときの、幽助のクセ。


すぐ顔が赤くなるのは、2人のクセ。


鏡がないけれど、自分の顔も赤い気がする。
気のせい、気のせい。

『幽助。』
「んあ?」
『大好き。』
「!?」

ほんと、「女神」やら「愛してる」やら簡単に口滑らすような男には見えないなあ。
思い出して不思議な気分になって、クスクスと笑う。

ちゅ

『!?』
「お・か・え・し。・・・今日泊まっていくけど、いい?」
『・・・喧嘩しないなら。』

了解、と目を細めて笑うしぐさがすごく好き。
そんなことをぼんやりとぼんやりと考えながら、幽助の胸に頭を預ける。



「結婚しよう」はきっと、二人の魔法の言葉。



END


あとがき

逆プロポーズさせたくて、
色々シチュエーション考えた挙句、こんなんになりました。
乱あみたいな言い争いですね。
逆プロネタが浮かんだとき、とにかく楽しんで書きたい!とだけ思っていたので、
わくわくして書けて、よかったです。
もう〜ツンデレ螢子萌へ萌へvvv