かたちのないもの

「結婚しない?」

蔵馬からの提案は唐突なもので、あたしは雑誌に向けていた視線を慌てて蔵馬の方へ移した。

「・・・え。」
「『え』って。」

蔵馬は困ったように笑った。

「いき、なり?」

明らかに動揺しているあたしを見て、蔵馬は今度は眉を上げて笑った。

「別に、いきなりではないんだけど。・・・答えは?」
「答え、は・・・。」

そんなの「OK」に決まっているんだけど、
一度答えるタイミングを逃してしまっただけに、なんとなく言いづらかった。

「あのさ、条件、が、あるの。」
「条件?」

「形があるものと形がないもの、ひとつずつくれたら、OKで。」

「形あるものと・・・ないもの?」

なんとなくなぞなぞのような条件を出してしまったけれど、蔵馬ならすぐに思いついてしまいそうだ。

「形があるものって・・・子どもとか?」
「蔵馬のバカスケベ変態。」
「そんな罵詈雑言浴びせなくたって・・・。」

拗ねたような表情をして予想外に頭を抱え込んだ。

すぐに思いつくと思ったのに・・・。
まあ、あたしも正解を考えていたわけではなかったのだけれど。

「指輪、とか?」
「貰えたら嬉しいかもね?」
「じゃ、形あるものはそれで!」

後は、形がないもの。

「言葉とか。」
「普段散々砂吐くような台詞を言ってるじゃないか。」
「本心ですがね〜。」
「はいはいはいはいもおっ!分かったからっ!」

照れ隠しに蔵馬の言葉を遮る。
蔵馬はごめんごめん、と言いながら再び考え出した。

「じゃ、これはどう?」
「何さー?」


「俺の名字とか。」


「みょ、みょーじ?」

そう言った蔵馬の顔は、一瞬妖狐に見えるほど。
驚いたあたしを見て満足そうに笑っていた。

「南野ぼたん。結構いいと思うけど?」
「・・・そうだね。」

実はあたしもその答えに満足した、なんてなんとなく言えないから、
蔵馬の肩にもたれかかって小さく「OK」と返事をした。

END


あとがき

蔵馬プロポーズ2回目(笑)
幽助はともかく、蔵馬のプロポーズを2回も書くとは思わなかったんですが、
とりあえず幽螢同様「名字」が使いたかったんです。
ぼたんがぼたんじゃないですね・・・よくあることですが。
私の小説は大抵こいつらが両思いなので、次こそ片思いさせたいと毎回思ってるんですが、
なんでいざ書くと両思いになるんでしょうか・・・(ちょ