彼女持ち疑惑

キーンコーン・・・

チャイム授業の終わりを知らせると同時に、
俺を含むクラスメートは弁当を出して思い思いのメンバーと食べ始めた。

一人で昼食を取ることが寂しいと思うわけではないが、
海藤が委員会だと、からかう・・・間違えた喋る相手がいなくてつまらない。

そんなことを考えながら弁当箱を開ける。

「よおっ!南野ー!」
「うわっ!」

勢いよく後ろからとびついてきた男子のクラスメート。
弁当からナスがひとつこぼれた。

「なんだよ、いきなり。」
「冷たいなあー。いいのかな?」

心底憎たらしいニヤリとした表情で俺を見ている彼の名は、山本。
まあ頭はいいほうだし、運動もできるほうだし、顔も悪くない。
女子に人気があるかは知らないけれど。

「何だよ、その弱み握ってます、みたいな顔は。」
「おやあ?いいのかな?言っちゃうよーん?」
「別に後ろめたいことなんてないし。どうぞ、お好きに?」

山本の声が大きいので、クラスにいる全員がこちらを向いている。
盟王高校は昼練がそんなに盛んではないから、
恋人でもいない限り、弁当は皆自分の教室で食べている。

まあここにいる全員に「弱み」が知られるとしても、
大した弱みではないだろうから、どうってことない。
妖狐になったところを見られたというのなら別だが、最近は魔界で以外妖狐にはなっていない。

そんなことを考えていたのは確か10秒も前ではなかったはずだ。


「南野、昨日手を繋いで歩いていた女の子は誰かなっ?」


・ ・ ・ 。

え・・・?

『ええええええええー!?』

クラスメート全員の大きな声が教室内に響く中、俺は事態が飲み込めていなかった。

昨日?・・・あ。

「ウッソ南野君彼女いんの!?」
「やるなあ南野ー!」

そんな声が頭の上を飛び交っている。
俺は隣に立っている山本に目線を移す。

・・・いやらしい顔だ。

「や、やまもと・・・っ。」
「白状したら楽になりますぜ、旦那?」

確かに昨日はぼたんと一緒に買い物に行った。
でも、見られているなんて。
いや、隠していたわけではないんだけど。

「あの青い髪の子はカ・ノ・ジョかな?」

肩を叩くな、肩を。
ぽんぽんと小さな音が鳴る肩が気持ち悪かった。

「外人の彼女!?」

待て待て待て待て彼女を肯定していない上に、外人とも一言も言っていない。

「と、とりあえず話を勝手に進めないで・・・。」
「じゃあお前の口から言えよ!」

「それは・・・。」

プルルルル

観念して吐こうと思った瞬間、俺の携帯が鳴った。

ディスプレイには、


着信:ぼたん


の文字。

バッドタイミング・・・ッ。

「おや、女の子の名前かね?」
「か、勝手に見るなよっ!」

山本その他18人の男子が俺の方を見ていた。
この状態でどうやって電話に出ろというのか。

(ね、こんなに焦ってる南野君初めて見たよ・・・。)
(本当に・・・そうなのかな?)

女子のこそこそ話は俺の耳にはしっかり聞こえてきた。
確かに俺は学校では「大人しい南野君」「無口な南野君」を演じていたから驚くだろう。

「ちょっと待って。電話に出るから・・・。」
「おーっと。教室の外には出さないぜ!ここで出ろ!」
「えっ。」

しぶしぶと電話の青いボタンを押す。

『あ、蔵・・・。』
「秀一だけど、どうかした?」

ぼたんが「蔵馬」と言う前に名前を訂正する。
ぼたんは俺が今どういう状況にいるのか当たり前だけど分かっていないから、
珍しく「蔵馬」と呼ばせない俺に驚いていた。

『え・・・秀一。』
「あーやっぱり恥ずかしいからいいや・・・で、どうしたの?」
『えっとねー、今日幽助の家で桑ちゃんの誕生日パーティーをやるらしいんだけど、来る?』
「あー、6時くらいになるけど、行くよ。」
『りょーかい!じゃ、また後でね!』
「うん、じゃあね。」

プーップーッ

電源の切れた音が耳に響く。
上目遣いで山本の顔を見ると、涙目で笑いをこらえていた。

「・・・なんで笑ってるんだよ。」
「いやいや、南野君可愛いですねー。」

ねー、という他の男子の声が妙にむかついた。

「で、結局のところ、彼女なの?ていうか、彼女だろ?」
「う。」

キーンコーン・・・

「ほ、ほら、昼休み終わるよ!」
「ちっ。放課後覚悟しとけよ!」

あーあ、面倒なことになった、と思いながら、
さらに面倒な物理の授業をうとうとしながら受ける。


勿論授業終了のチャイムが鳴った直後、教室に俺の姿はなかった。


END


あとがき

ごめんなさい、日常とか、書きたかったの・・・。
クラスメートの前では「男の子」な南野が書きたかったの!
この後の話

「あ!南野すでにいねえ!」
「ちょっもう正門前なんだけど!」
「あ!」
「なんだよ山本。」
「あの子だ!」
『え。』(皆で)

ってなって、皆窓から「南野ー!ヒューヒュー!」とか言うんです。
楽しい・・・(私が)
描いたのは10月でした。上げるの遅っ・・・。