forget-me-not1


どこかで聞いたことがあった気がする。

「夢幻花を使って恋心を消しても、本当に好きだった人なら、また好きになるよ。」

こんなことを今さら思い出していたのも、これから起こる出来事を予感していたからかもしれない。


「南野君!」

魔界に行くようになってから、あまり呼ばれなくなった名前を呼ぶ、懐かしい声。
それは、待ち合わせ場所でぼたんを待っているときのことだった。

「喜多嶋・・・?」

中学卒業以来会っていない、初恋の人。
駆け寄ってくる姿はあの頃の面影がどことなく残っている。

「やっぱりそうだ!いや〜、かっこよくなったね!」
「喜多嶋は相変わらずだね。」
「えへへ。皆にもいつまでたっても変わらない、って言われるよ。」
「そっか。」
「そういえば、同窓会、来る?」
「ああ、来月行われるやつ?」
「そうそう!私幹事なんだよね。なるべく来てね!」
「うん、行くよ。」

「蔵・・・秀一?」

「ぼたん。」

思わず本名を口に出しそうになってあわてて口を押さえたぼたんがそこにはいた。

「知り合いかい?」
「うん、中学校の同級生。」
「はじめまして、喜多嶋麻弥っていいます。」
「はじめまして。」
「南野君、もしかして・・・彼女?」
「うん、そうだよ。」

喜多嶋の顔に、動揺した表情が見えた。

「そっか・・・あ、友達呼んでる!じゃあまた、今度ね!」
「ああ、またね。」

そう言って軽く挨拶を交わして後ろを振り向くと、明らかに不機嫌そうな顔をした俺の彼女がいた。

「・・・なんだか仲が良さそうじゃないか。」
「やきもちですか?ぼたん。」
「なっ!?ち、違うよ!」

顔を真っ赤にして否定するぼたん。
まったくこの人は素直じゃないんだから・・・。

「ごめんごめん、さ、行こうか。」
「むー、今日は罰として映画だからね!」
「はいはい、お姫様。」
「ごまかさない!」

今日はぼたんの言うことをおとなしく聞いておこう。
恋愛物の映画は苦手なんだけれどな。

―――――――――――――――――――

「ああー面白かった!」
「そう?良かったね・・・。」
「蔵馬ってば本当に恋愛映画苦手なんだねえ。」
「幽助と螢子ちゃん見てるほうが面白いからね。」
「あははっ!それは言えてるさね。」

「そうだ、さっきの子誰なんだい?」
「えっ。」
「何 動 揺 し て る ん だ い ?」
「中学校の同級生って言わなかった?」
「絶対にそれ以上ある!」
「ええー・・・何でそうなるんですか。」
「蔵馬があの子を見る目がいやらしかった!」

いやらしい、なんて。
そんな風に俺を見ていたんですかぼたん。

「・・・初恋の人ですよ。」

ぼたんの目がびっくりしたように見開く。

「え・・・。」
「ぼたん、泣かないでね。」
「なっ泣かないよ。」

「今俺が好きなのはぼたんだけだよ。」

「蔵・・・っ。」

名前を呼び終える前に静かに唇が触れた。

「街中で何するんだよ〜〜。」
「ぼたんが可愛いからですよ。」
「・・・もう。」

口では怒っているのに顔が怒っていない。
自然と顔が緩んでしまう。

「・・・さて、デザートでも食べに行こうか?」
「えっデザート!行くよ!」

機嫌が直るのも早い俺の恋人はさっきとは対称的な笑顔を見せた。
俺もゆっくり笑って、手をつないで歩き出した。


あとがき

本当はすぐに終わるはずだったけど、続きます。
「弥」なのか「耶」なのか、どっちなんでしょうね。
確か番外編では「麻弥」でしたが、霊界紳士録では「麻耶」でした。
そういえば裏浦島戦で蔵馬が若返るとき、回想に麻弥ちゃん出てきましたね。
少しショックでした←えっ