小さな疑問

いつも不思議に思う。

『母さんはどうして親父を選んだのだろう?』


「幽助!早く起きて!」
「あと5分・・・。」
「皆来ちゃうわよ!?」

俺の家はいつも騒がしい。
原因は親父が起きないことだ。
俺が生まれる前から、親父はよく寝る男らしい。

親父は、誰が見てもズボラというかだらしないというか・・・。
とにかく、クールな男ではない。
それに比べて母さんは、息子の俺から見ても美人で、未だにナンパもされるらしい。

どこが良くて結婚したのだろう・・・?


今日はここ、浦飯家で飲み会が開かれる。
理由は知らない。
親父と母さんは、たまにこの家で飲み会を開く。
そこに参加する人たちは決まっている。

1人目:南野秀一さん

「お邪魔します。」

絶対1番最初にやってくるのはこの人。
髪の長い、親父の友達。
会社の社長をやっているらしい。
親父となんで知り合いなのかは、知らない。

ちなみに、母さんよりこの人の方が親父を起こすのが上手だ。
南野さんが近づくと、なぜか親父は起きる。

2人目:桑原さん

「おーい邪魔するぜー。浦飯ー!!」
「お邪魔します、螢子さん。」

桑原さんは、いつも奥さんの雪菜さんも連れてくる。
すごく綺麗な奥さんだけど、親父曰く「絶対進展しない2人」だそうだ。
この人は、母さんを「雪村」という旧姓で呼ぶ。
親父のことを「浦飯」と呼ぶから、きっと「最終学歴:中卒」の親父の中学時代の友達だろう。

3人目:温子さん

「邪魔するわよー!酒!酒!」

この人は、俺のばあちゃんだ。
なぜか知らないけど、俺は昔から「温子さん」と呼ばされている。
今さら「ばあちゃん」と呼ぶのも気持ち悪いし、呼んだら恐ろしいことになるのも分かっている。
昔の写真と今の姿が全く変わらない、若作りな人である。

4人目:ぼたんさん

「お邪魔するよー。」

この人は南野さんの奥さんで、着物で窓から入ってくる。
たまに南野さんと一緒に来ることもあるけれど、大抵1人だ。
別に仲が悪いわけではなく、ぼたんさんの仕事の関係らしい。
「地毛が青だけど外国人ではない」という、とても不思議な人。

5人目:飛影さん

「・・・。」

この人は毎回参加するわけではない。
でも、家に入ってくるときはいつも無言で、雪菜さんの横に座る。
いつも怪我をしている、背の低い人だ。


「よし、じゃあ飲むか!」

飲み会はいつも親父の一言で始まる。
皆、飲んで、喋って、食べる。それだけだ。
料理は母さんとぼたんさんと雪菜さんが作る。
温子さんは作らない。

酒は飲めないけど、俺はいつもリビングのイスに座って皆の近くで料理を食べている。
皆を観察していて感じる疑問は、たくさんある。

まず、飛影さんと雪菜さんのことだ。
この2人には何かありそうだ。
2人の間の空気がなんだか・・・そう、兄妹みたい。この表現がぴったりだと思う。
でも、誰も教えてくれない。皆知っているはずなのに、言葉を濁す。
桑原さんについては知ってもいないらしい(旦那さんなのに)。

次に、南野さんのことだ。
なぜかは知らないけれど、皆に「くらま」と呼ばれている。
この人が冷ややかに微笑むと、皆が一瞬静かになる。
いつもぶすっとした顔をしている飛影さんでさえ、青い顔をする。
俺が思うに、この人はこの飲み会メンバーの中で最恐だ。

そして何より、このメンバーの関係のこと。
皆がどこで出会ったのか。
どんな関係なのか。
どうしてこんなに仲が悪そうで良いのか。
俺は学年の中でも頭が良いほうだけれど、どんなに考えても見当すらつかない。


「お、酒がなくなった。」

飲み会が始まって1時間足らず。
山のようにあった酒がもうなくなった。
いつも思うけれど、皆あんなに飲んで大丈夫なのだろうか?

「あ?じゃあ俺が買いに行って来るわ。運動ついでに。」
「幽助!じゃあ、醤油とねぎも買ってきて!あと・・・。」
「お前もついてこればいいだろ。」
「分かったわよー。」
「2人で変なことすんなよー?」
「うるせえ桑原!」

親父が人差し指を桑原さんに向けると、桑原さんは雪菜さんの後ろに隠れた。
いつも、親父が手で銃のようにやると、皆が驚く。
これもよくわからないことの1つだ。

親父と母さんが家を出た。
皆は変わらず話をしながら食べ物をつまんでいる。

聞くなら、親父と母さんがいない、今がチャンスだ・・・。

「あの!」

俺が発した一言に、皆が振り向く。

「み、皆さん・・・母さんは親父のどこが好きで結婚したのか知ってますか!?」

しばしの沈黙。

『あははははははは!』

そして、揃って盛大に笑い出した。

「ひーひー。面白えこと聞くなあ、海斗!」
「確かに、不自然でしょうね。」
「学年一の優等生と学年一の不良だったもんなあ・・・俺も不思議に思うぜ。」

優等生と、不良。
実の親のことなのに、俺は何も知らなかった。

「どこが好きなんだろうねえ・・・。」
「温子さん知ってますか?」
「知らん!」

温子さんが南野さんの問いを一蹴すると、皆はくすくすと笑った。

「俺たちが幽助たちと出会ったときには既に、
2人の間には他人に踏み込ませないような部分があったからね。」

ああ、この人たちは親父のことをよくわかっているんだ。
そうだ、この人たちとの関係も知りたい。

「あと、皆さんは親父とどういう関係なんですか?」

「俺たちかあ?」
「俺たちは・・・。」

「「「戦友、だな。」」」

南野さん、桑原さん、飛影さんは揃って言った。

―――「戦友」?
この、平和な時代に―――?

「浦飯が死んだことがあるのは知ってるだろ?」
「・・・信じてないけど・・・。」
「はは、まあ、そうでしょうね。でも実際幽助は2度死んでるんですよ。」
「全く、間抜けな奴だ。」

親父が2度死んだ、という信じがたい話よりも、俺は、この「3人」のことが気になった。
たまに、平和な世界に住んでいるとは思えないような目をしている。
親父や桑原さんが怪我をしている、4人の写真も見たことがある。

ただ、それを聞いてはいけない気がした。

「ただいまー。」
「おおー!酒!酒!」
「うっせーアル中ババア!」

親父達が帰ってくると、さっきまでの話の面影を見かけなくなった。
酒が来た途端、皆うるさくなった。

「おせーぞ浦飯!」
「待ちくたびれましたよ。」
「フン、のろまな奴め。」
「はは、わりいわりい。」

3人の憎まれ口を聞いた親父は、子供のような顔で笑った。


「海斗、ジンジャーエールでいい?」

帰って来たばかりの母さんが俺の側に寄ってきた。

「いいよ。」
「はいどうぞ。」
「ねえ母さん?」
「なあに?」

「親父のどこが好きなの?」

母さんは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。

「さあ?理由なんて知ってたら、結婚してないんじゃないかしら。」

ああ、これが「他人に踏み込ませない部分」か。
優しい母さんの笑顔と、いつの間にか母さんの横にいた親父を見て、妙に納得してしまった。

「何笑ってんだ、螢子?」
「なんでもないわよ。」

顔を合わせて笑う2人を見て、なぜだか俺もつられて笑った。
きっと親父が母さんを選んだのも同じ理由なのだろう。


安堵の表情を浮かべた俺を南野さんと桑原さんが優しそうな目で見ていたらしいけれど、
それを聞かされたのは俺が親父の「2度死んだ理由」を知った、ずっと後のこと。

END


あとがき

最初に書きたかったものが最後には違うものに変わっています。
なんでこうなるんでしょう。いつも後悔してしまうorz
息子さんは、別にマザコンだからって理由で
幽助が「親父」で螢子が「母さん」なわけではないです。