800


彼の最愛の妻が30歳という若さで死んで、もう800年経つ。


彼の肉体は彼女が死ぬ、その時まで共に老い続けた。
かくいう俺も、およそ30歳くらいまでは年を取り続けた。

これは、他の妖怪から言わせると、「奇跡」だそうだ。

お互い肉体が時を刻まなくなってからは、町から町へ、居住地を変えていった。

俺の家族も、桑原君も、温子さんも、静流さんも、そして、螢子ちゃんも。
いなくなってから、もう随分経ってしまった。

「ああ、もうすぐ800年だな。」
「何がですか?」

「何が」だなんて分かりきっていることだけれど、俺はそう返した。
そうすると彼は寂しそうに微笑んで答える。

「螢子が、死んでからだよ。」

彼女が死んで、600年くらい、幽助は荒れていた。
誰も、「いい加減立ち直れ」とは言えなかった。
彼女の死因は交通事故。
先に逝くことは分かりきっていたとはいえ、あまりにも早すぎる死。
現実を受け止められなかったのは、幽助だけではなかった。

俺と幽助は、未だに魔界と人間界を行き来している。
もう人間界にあの頃の知り合いはいないけれど、俺たちは決して魔界だけに住もうとは思わなかった。

幽助は未だに、恋人の1人も作っていない。


螢子ちゃんが死んだ直後、不安定な幽助を連れて、霊界に行った。
さすがにコエンマでも、どうしようもなかった。

案内人は、ぼたんだった。
螢子ちゃんと同じくらい、ぼたんも辛そうで、見ていられなかった。

『螢子・・・。』
『何シケたツラしてんのよ。』
『ごめんな。』
『何謝ってんのよ。おばあちゃんになってしわくちゃになって
幽助に捨てられる前に死んで良かったわ・・・。』

そう言う螢子ちゃんの顔からは微笑が消えていた。
幽助が魔界に行く前だって、いつだって、笑顔だった、彼女が。

『何言ってんだよ、ばか。』

言い返す幽助にも力がなかった。
こんな2人を見るのは初めてだった。

『螢子ちゃん、そろそろ・・・。』
『うん、分かった。じゃあ、幽助・・・。』
『螢っ・・・。』

『さよなら幽助。愛してる。幽助と出会えて良かった。』

最後の最後に、彼女は微笑んだ。

俯く幽助の表情は、誰も見ることができなかった。

『俺もだよ、・・・螢子。』



「あれからもう800年か。月日が経つのは早いもんだな!」
「そうだね。」

螢子ちゃんが羨ましいよ、幽助。
こんなにもたくさんの奴に愛される君に、1番愛されて。
死んでもなお、心の中を占めている。

「オイ、貴様らはいつもそんなに暗いのか?」
「飛影!」
「久しぶりだな、おめーも背ェ伸びたな。」
「フン、俺を何歳だと思っている。」
「ははっ!相変わらず俺より随分小さいけどな。」

螢子ちゃん、この青い空のどこからか、見ていますか?

今日は、幽助の誕生日です。覚えていますか?
って・・・忘れるわけないですね。

もう貴女も桑原君もいない誕生会だけれど・・・。
魔界の王となった彼を祝う声は絶えません。

俺も、貴女の好きな青い色のバラを今年は幽助にプレゼントします。

1番欲しいものを与えられそうにはないですからね。


END


あとがき

なんか暗いのが書きたかったんです。
実は内容は青の女神書く前から考えてました。
幽助の1番欲しいものは・・・なんでしょうね。
やっぱ、螢子ちゃんでしょうか?
なんで最後飛影出てきたんでしょうか・・・←
ちなみに、800という数字に意味はありません。